チャック・ベリーの60歳バースデイコンサートと、そこに至るまでの苦悩を描いた(笑)1987年公開のドキュメンタリー映画
“Hail! Hail! Rock 'N' Roll”が、多くのボーナス映像を含むDVDとして蘇りました。この映画の日本での公開は1988年だったようですが(コンサートが開催されたのは1986年10月16日)、当時、(バンドのボーカルでもあった)ストーンズファンの友人と心斎橋のソニータワー(って、もう無いんですか?)へ観に行って、それ以来、約20年ぶり(汗)に観直したんですけど、やっぱり面白かったですね。映画本編も第一級の音楽ドキュメンタリーだと再確認したし、Disc 2(アメリカ盤には4枚組もあるらしいですが)に収められた、制作裏話満載の未発表映像も非常に楽しめました。スゲーなぁ、チャック・ベリーは(笑)。・・・そもそもこの映画、冒頭にあるように、チャック・ベリーの60歳の誕生日を祝うものとして企画/制作されたものですが、そこは性格の良いことで知られるチャック・ベリー、一筋縄ではいかないんです。
“The Whole World Knows the Music, Nobody Knows the Man”と上のジャケットにもありますが、チャック・ベリーは非常に複雑且つ難しい人物で、世界中から彼を慕うアーティストが集まり、彼の還暦を祝う映画を作るというのにまるで協力的ではないんですよね。映画の本編でもそれは充分伝わってきて、約20年前にそれを観た時にも、僕は大いに感心したんですが(笑)、今回発表されたボーナス映像では、その全貌が明らかになります。まあ、要するに金なんですけどね。意識的にそうしているのかは分かりませんが、映画の出だしから“Money”という言葉を連発しています。・・・こんな風に書くと、チャック・ベリーという人物は凄く嫌な奴のように思えて、実際良い人では決してないと思うんですけど(笑)、それと同時に、凄く頭の切れる人物であることも伝わってくるんですよ。映画本編には、チャック、リトル ・リチャード、ボ・ディドリーというR&Rオリジネイター3人による巨頭会談が挿入されますが、そこでのチャックの態度は非常に知的で・・・まあ、リトル・リチャードが異様にハイテンションなので、余計そう見えるのかもしれませんが(笑)・・・そのシーンを観ているだけでも、チャック・ベリーというスリムでハンサムな黒人アーティストの聡明さや、ずる賢さみたいなもの(リトル・リチャードを煽って、自分の言いたいこと・・・例えば人種問題だとか・・・を言わせているようにも見える)が伝わってきます(公開当時は全然そんな風に観ていなかったんですけどね)。それにやはり何と言っても、R&Rのオリジネイターであるというのは、もう紛れもない事実で、それが彼の最大の強みであり魅力ですよね。・・・でも、ホントに性格悪いんですよ(笑)。金にうるさくて(しかも現金でしか受け取らない・・・)。当時、映画の製作に関わったスタッフ(特に女性プロデューサー)にとって、このプロジェクトは悪夢だったそうです(大体、DVDに映像特典として収められたものの多くは、“撮影現場に現れるかどうか分からないチャックを待っている間の日記”として撮り始めたものだったりするんです)。
・・・と、チャック・ベリーのそういった側面を観て行くのは、確かに興味深いし面白くもあるんですが、僕が今回改めて感動したのは、やはりと言うか、当然と言うか、バンドのリハーサルやコンサートを映した部分、チャック・ベリーの音楽そのものでした(コンサートについては、今回明らかにされた事実があるんですけど・・・)。映画には音楽プロデューサー兼バンマスとして、チャックの弟子とも呼べるキース・リチャーズが参加していますが、チャックから多くのアイディアを拝借し勿論尊敬もしている彼は、チャックがギター1本を持って現地に赴き、いつも地元の急造バンドをバックにLIVEを行っていることを残念に思っていて、そのバースデイコンサートでは最高のバンドをバックに演奏してもらおうとするんです。当時はバスの運転手をしていたオリジナルピアニストのジョニー・ジョンソンを呼んできたりして。チャック、ジョニー、キースの他には、ドラムにスティーヴ・ジョーダン、ベースにジョーイ・スパンピナート(NRBQ)、キーボードにチャック・リーヴェル、サックスにボビー・キーズ、コーラスにはチャック・ベリーの娘のイングリッド、そして曲によっては
ロバート・クレイが2ndリズムギターとして参加するんですが(彼はゲストとして歌も披露します)、このバンドがホント最高なんですよ。チャックの住居でもあるベリー・パークでバンドはリハーサルするんですが、それを観ているチャック・ベリーの表情がまた良いんですよね。自分の弟子達が活き活きと演奏している姿を通して、自ら生み出した音楽の素晴らしさを改めて感じているような、そんな顔に見えるんです。あのシーンや、チャックがギターを爪弾きながら40年代の曲を口ずさむシーン(これはボーナス映像)には、純粋なアーティストとしてのチャック・ベリーが映し出されていると思います。・・・ただ、自分も演奏に加わって行くと、また色々問題起こすんですけどね(笑)。明らかに弟子イジメしているシーンもあるし。・・・弟子つったって、キースですよ?(笑)
“Oh Carol”のイントロを何度も演り直させるんですよ。“きちんと弾こうぜ”とか言いながら。“あんたが言うなよ”と僕が突っ込んでおきましたが。
・・・こんな風に、印象に残ったシーンを挙げて行くとキリが無いんですが、今回ボーナス映像で明らかになった事実で“へぇ~”と思ったのは、“(リハーサルでは、これまたちょっと珍しくローズ指板の
ストラトを弾いていた)
クラプトンがコンサートで使ったGibson ES-350は、キースがチャックに使ってもらおうと用意したものだったけど、チャックが自分のギターを使うと言ったので(いつも必要経費として控除するらしい・笑)クラプトンが使うことになった”という話、“コンサート後半に登場して大ウケだったChessレコードのレーベルメイト、エタ・ジェイムスのことをチャックは全然知らなかった(キースが招いた)、最初は呼ぶことにも反対していた”という話、そして、“生まれ故郷セントルイスでのコンサート本番当日は(その前日に、周囲の反対を押し切って25,000ドル欲しさに出演した夜の野外コンサートのおかげで)声がボロボロで、映画に収められた歌は、実はアフレコだった(アフレコ代は別途請求)”という話などですね。・・・他にも、“フィルム交換の為、3曲毎にインターバルを置かなければいけなかったので、間を持たす目的でジョニー・ジョンソンが演奏したんだけど、速いブギばかりでスティーヴ・ジョーダンは大変だった、コンサートが終わった時はクタクタで、それまで苦手だった牛乳を何本も飲んでしまった(笑)”という話など、面白いネタ満載です。“このDVDを観ればチャック・ベリーのすべてが分かる”とは言いませんが(スタッフの苦労は分かる)、チャック・ベリーという人物(音楽的には天才)の複雑だけど魅力的なキャラクターに触れることは出来ると思います。映画の中で、“俺が死ぬもんか”という名言を残したチャックですが、“ひょっとしたら、ホントに死なないんじゃないか?”なんて気にもなってきます(笑)。“チャック・ベリーの音楽はこれまで余り聴いたことがない”という人であっても、音楽好きであれば必ず楽しめる映画/DVDだと思います。一家に1枚(2枚組ですが)如何でしょうか?