アル・ディメオラの演奏によるアストル・ピアソラの曲を集めたコンピレーション盤です(アルバムラストに収められた
“Last Tango For Astor”のみアル・ディメオラによる曲)。リリースは1997年。アルバムの大半は、'97年以前に発表されていたアルバムに収録されていた曲ですが、2曲がこのアルバム用に録音されたものです(うち1曲はピアソラとディメオラの共作)。超一流の演奏家が、超一流の作曲家の曲を思い入れたっぷりに演奏している素晴らしいアルバムです。
アル・ディメオラのギターを聴いたのは、'80年発表の
“Friday Night in San F-
rancisco”が最初でした(・・・ひょっとしたら、それ以前にもラジオか何かで耳にしていたかもしれませんが、とりあえず僕が最初に買ったアルバムはこれでした)。 御存知の通り、このアルバムはアル・ディメオラとパコ・デルシア、ジョン・マクラフリンの3人によるLIVEアルバムで、日本では
“スーパー・ギター・トリオ・ライヴ”という邦題がついていました。数年前からロックを聴きだして、それから少ししてギターも始めた僕でしたが、このアルバムを最初に聴いた時はぶったまげました。1曲目がいきなり
“Mediterranean Sundance”(地中海の舞踏)ですから。ディメオラにもビックリしたし、パコにも驚きました。
“うわっ!何だこの人達?”という感じでしたね。曲も凄く気に入ったし、観客の反応も印象的でした。まあ、目の前であれを演られれば、誰だって声を上げたくなりますよね。本人達がどう思っているのかは分かりませんが、日本での彼等の呼び方“スーパー・ギター・トリオ”というのは的を射たものだと思います。
アル・ディメオラは今更説明の必要も無いほどのテクニシャンで、彼にかかればエディ・ヴァン・ヘイレンでさえ“ちゃんとピッキングできていない”人なんですが(笑)、最近の所謂テクニカル系ギタリスト(イングヴェイ・マルムスティーンだとかあの辺)の元祖みたいな人でもあると思います。と言うのも、彼はJAZZの世界でも、フラメンコの世界でも認められているし、ラテンミュージックへの傾倒も強い人ではあるんですが、初期の作品における彼のプレイやその音色は、殆んどロックギタリストのようなものでもあったと思うんです。何たって、彼がその頃の使っていたのは
レス・ポールにマーシャルでしたからね。レス・ポールなんてディマジオPU付ですよ(笑)。アル・ディメオラという人は、
本当の意味でのフュージョンギタリストだと思います。このアルバムにはあまり関係ありませんが、コンポーザーとしての彼も僕は好きなんですよ。・・・でも、彼の大ファンかというと、そうでもないんです(笑)。僕には彼の演っているような音楽より好きな音楽があったし、彼のようなギタリストになりたかったかというとそれも違うので。勿論、彼のようにギターが弾ければ、そんなに素敵な事はないと思いますけどね。
そんな僕なので、彼の作品は数えるほどしか持っていないのですが、'96年にスーパー・ギター・トリオが復活した時には(この時はThe Guitar Trioという名前もついていました)、すぐにアルバムを聴きましたし、そのツアーで日本に来た時は観に行きました。西英米大使館が後援している格調高いコンサートでしたが(笑)、運良く良い席が取れて、間近で彼等のプレイを観る事ができたんです。もう感動でしたね。
開いた口がふさがらないといった感じでした(・・・これはものの例えで、勿論口閉じて観てましたよ)。でも、皆さんお待ちかね
“地中海の舞踏”でディメオラが失敗したんですよ。チューニングが狂っていたのか、単にミスったのかはちょっと忘れましたが、いきなり演奏を止めたんです。これには観客も大盛り上がりでしたね(笑)。
ディメオラは苦笑い、パコは余裕で微笑んでいるという感じでしたが、そんな巨匠達を観れて僕はちょっと嬉しかったです。・・・ディメオラの思い出話も結構あるもんですねぇ。自分でも意外です。
そしてこのアルバムですが、タイトル通り、アル・ディメオラが
“モダンタンゴの父” アストル・ピアソラの曲をプレイしているものです。僕はタンゴもフラメンコも好きですが、何かを語れるほどのものでもないので、ここでは黙っておこうと思います(笑)。
“The Tango Lesson”という映画が凄く好きだったりしますけど、ピアソラのアルバムを熱心に聴き込んだ事もないんですよ。僕はまあそんなもんですが、ディメオラはもの凄くピアソラが好きみたいです(笑)。ライナーによると、彼等が初めて会ったのは日本だったらしくて、それ以来、ディメオラはピアソラの音楽にどんどん惹かれていったんだそうですね。自身の音楽ルーツのひとつとしてタンゴを挙げているディメオラですから、ここで聴かれるプレイも本当に素晴らしいです。僕はどちらかと言うと、彼のエレクトリックのプレイより、アコースティックの方が好きだったりするんですが、その中でも、このアルバムで聴かれるような1音1音をじっくり弾いているプレイが好きなんですよ。そういった
感情を込めたプレイが素晴らしいアルバムなので、ギターが好きな人は勿論ですが、タンゴという音楽が好きな人にもお薦めしたいですね。コンピレーション盤ではあるんですが、1枚の完成された作品のようにも思えます。
このアルバム用に録音した2曲も素晴らしいですし。