アラニス・モリセットの
“Under Rug Swept”に伴なうツアーの様子を収めたDVD(と、アメリカ盤未収録曲を集めたCDの2枚組)です。彼女のツアードキュメントというと 1stアルバム時の
“Jagged Little Pill,
Live”もありますが、基本的にあれと同じような作りになっています。このDVDの場合、中心となっているLIVE映像は2002年の8月にオランダのロッテルダムで行なわれたものですが、そこにヨーロッパ各地のLIVE映像やオフステージの様子、アルバム“Under Rug Swept”制作時の映像が散りばめられています。“Feast On Scraps”というタイトルが示すように、
スクラップブックみたいな感じです。このブログで取り上げるにしては、メジャーすぎるぐらいメジャーな人ですが、僕は彼女の大ファンなんですよ。・・・昨日の
スザンヌ・ヴェガとは違って(笑)。
そんなメジャーな人なので、ここで細かい説明は省きますが、1stアルバムが出た時から好きでした。先日、
DECONSTRUCTIONのところで書いた通り、始めはRed Hot Chili Peppersの
フリーや、
デイヴ・ナヴァロが参加しているということが気になって買ってみたアルバムでしたが、そういった有名ゲストの演奏よりも、彼女の存在感のある声や歌いまわし、その個性的な曲に感心したんです。まあ、
“Jagged Little Pill”で世界的なデビューを飾る以前から、母国カナダでは子供の頃からの長いキャリアがあった彼女なので(僕は聴いた事ありませんけど)、さほど驚くほどの事ではないのかもしれませんが、とりあえず僕は、
“凄いのが出てきたな~”と思いましたね。今更言うまでもありませんが、そのアルバムによる彼女の成功は、ホントもの凄いものでした。今でもコンサートで一番盛り上がるのは、あのアルバムからの曲だったりするんですよね。それぐらい
完璧なデビュー作だったと思います。
僕は中々 彼女のLIVEに足を運ぶ事ができなかったんですが、最初の映像作品、 “Jagged Little Pill, Live”を観た時はちょっと感動しましたね。そこに映っていた彼女の姿、そして彼女のファンの姿に。アニ・ディフランコのDVDを紹介した時にも同じような事を書きましたけど、彼女達は同性から強烈な支持を得ていて、ステージも素晴らしくパワフルでポジティブなエネルギーが溢れているんですよ。アラニスの曲を大合唱する女性ファン(まあ、男も映りますけど)の姿には、感心すると同時に感動してしまいましたよ。ホントに。アラニスのステージはもの凄いエネルギーが爆発していて、
彼女の本領はLIVEにこそある!と声を大にして言いたいぐらいです。 ・・・アラニスって、完璧主義者なんでしょうかねぇ、アルバムはアルバムでどれも素晴らしいんですけど、どうもきっちり作りこみ過ぎてるみたいな感じを受けるんですよね。アルバムを聴いている時は勿論良いと思うんですが、そこにはLIVEで観る事のできる彼女のエネルギーの一部しか入っていないような気がします。まあ、アメリカで売れるアルバムにするには、ある程度ああいった作り方になるのはしょうがないとは思いますが、そういう風に作りこんだアルバムより、LIVE作品だとか、アコースティックバージョンの曲の方が、彼女の本当の姿を映しているように思うんですよ。
そしてこのDVDですが、やはり良いです。僕は彼女がこのツアーで日本に来た時、ようやく観る事ができたんですが、その感動が甦ります(笑)。コンサートをまるごと収録している訳ではなくて、曲中でも、どこか別の土地での同じ曲の映像に切り替わったりして、それが決して良い録画/録音状態ではない事もあるので、多少イライラする事もありますが(凄くイラつく人もいると思います)、それも色んな会場でのファンの姿を映したいという、アラニス監督(このDVDの監督は彼女自身)の意思の表れだと思います。僕は彼女のファンなので好意的です(笑)。そういう風に、各地で映される彼女のファンは、本当にアラニスの事が好きなんですよね(移動中のアラニスに向かって
“I Love You!”と絶叫する女性ファンはちょっと怖いかも・・・汗)。ここに収められているLIVE映像は主にヨーロッパツアーのものなので、イタリア、ドイツ、スペイン、クロアチア、イスラエル・・・と、英語が母国語ではない国も多く含まれている訳ですが、そういう国の人達もみんなアラニスと一緒に歌っているんですよ。僕はそれを観て、“アラニスも ファンも凄いなぁ・・・、音楽って凄いなぁ・・・” なんて思いました。アルバム制作時に撮られた映像も興味深いです。ツアー中の彼女は基本的にハイパーなんですが(笑)、独りで曲を作っている時に突然感極まって泣き出すシーンがあるんです。こういうのを観ると、彼女は
エネルギーに満ち溢れた人であると同時に、
凄く繊細な人であると感じますね。彼女はよく“LIVEは自らを解放する場所”と言っていますが、曲を作るという作業は自分の内側に入り込む儀式で、ついこんな事になってしまうんでしょうね。
この時のツアーからバックバンドのメンバーが大きく代わったようなんですが、この
バンドが素晴らしく良いんですよ。第1期アラニスバンド(
Sexual Chocolate というバンド名まであったらしいですが・笑)からは、
テイラー・ホーキンス(現Foo Fighters)という現在No.1のバカドラマーを輩出している事からも、彼女のバンドが非常にレベルの高いミュージシャンで構成されている事が分かりますが、このバンドのメンバーも全員腕利きで素晴らしいです。・・・腕利きと言っても、所謂スタジオミュージシャン的な上手さを持つ人達ではなくて、全員見事なロッカーです。2人いるギタリストもタイプが違っていて、向かって右側にいる
ジェイソン・オームという人は、中域の出たガッツのある音で
正統派のロックギターを弾く感じ、左側の
デヴィッド ・レヴィータという人は、どちらかというと
エフェクティブなタイプで、そういった音でのアルペジオや、たまに弾くソロでは感情を爆発させたような速弾きをしたり、光線銃を使ったりディレイを発振させたりする(笑)人です。2人の違いは使用ギターにも現れていて、ジェイソンが主にレス・ポールやストラトを使用する完全に王道タイプなのに対して、デヴィッドはテレキャスター・シンラインやムスタング、ダン・エレクトロと完璧に“外した”タイプです。2人とも本当に上手いギタリストだと思います。
初代ドラマーのテイラー・ホーキンスは大好きなドラマーなんですが、現在のドラマーもパワフルでよろしいかと思います。テイラーほど馬鹿っぽくはないんですが(笑)。見た目は“近所でも評判の息子さん”みたいな感じなのに、ドラムはロックしていて、好きなタイプですね。
“まさかあの子がそんな事するなんて・・・”という感じです。 ・・・そして問題はベーシスト、いや、この人が足を引っ張っているとかそういう事では全然ないんですが、現在のアラニスバンドのベーシストは、元Jane's Addictionの
エリック・エイヴェリーだったんですよ。これを書くまでまったく気づいていませんでした~!いやはや、凄いJane's Addictionファンもあったもんです(笑)。・・・だって昔はEric Aと名乗ってたし~。髪型なんかも全然違うし~。アルバムに参加した流れで、ツアーメンバーにもなったと思うんですが、非常に地味な感じで弾いているので、感心がまるでそっちへ行ってませんでした・・・。それと入れ替わるように、前のアラニスバンドのベーシストが、再結成 Jane's Addictionに参加したようですね。もうちょっとミュージシャンに敬意を払えよ・・・。>俺 ザックというキーボードのお兄ちゃんも、
芸術家タイプといった感じで良いんじゃないでしょうか(手抜き)。
ただアルバムを再現するだけではなく、曲中のインプロバイズもしっかりこなすような優れたミュージシャンの集まりであるこのバンドは、完全にひとつのロックバンドのようになっています。
“アラニスとバックバンド”ではなくて、
“アラニスバンド”というロックグループのような感じです。そんな素晴らしいバンドのバックアップを得て、バンドのボーカル、アラニスは歌い、何かにとりつかれたかのように髪を振り乱し、走り回る訳です。彼女の事を“ちょっとエキセントリックなPOPスター”という風に思っている人がいたら、一度LIVE映像を観て下さい。
彼女は凄いロッカーですよ。バンドもホントに良いバンドだし。そこら辺の似非ロックバンド(あえて名前は挙げませんが ・・・ってか、そういうの多すぎて・笑)なんて話にならないぐらいロックしてます。・・・でも、そういう彼女のロッカーとしての面が、イマイチ伝わっていないからなのか、それとも最初にやたらと流行ってしまった反動か(これは多分ありますねぇ・・・)、最近どうも日本での人気が下降気味みたいなんですよ。僕は昨年行なわれた日本公演も観に行きましたが、お客さんの入りが結構淋しいものだったんですよね(コンサート当日まで大して日にちがない突然の発表や、比較的大きな会場だったというプロモーター側のミスみたいなものもあるとは思いますが・・・)。それでも、会場に足を運んだ人は みんなアラニスが好きな人ばかりで、コンサートの内容はホント素晴らしいものでした。髪を短く切ったアラニスは、相変わらず元気いっぱいで、素晴らしい歌を聴かせてくれたし、バンドの演奏も良かったです。
とにかく、僕はLIVEを観ない事には アラニスの魅力は半分・・・は言いすぎとしても 3分の2ぐらいしか分からないと思っているので、アルバムは聴いた事があるという人にも、是非一度こういうLIVE映像を観て欲しいと思います。CDの方に収められた
“Simple Together”という曲や、
“Hands Clean”のアコースティックバージョンも素晴らしいですよ。