そして前回の続きです。・・・そもそも、ギターという楽器は、フレットで音程が決まっているものの、そのフレットとフレットの間の音程も出せたりもするので、ピアノなどの鍵盤楽器とは違い、“非常にいい加減な楽器”と言えると思います。話がエレキギターになると、それは更に顕著になって、(日本で言うところの)チョーキングという技を使って、鍵盤楽器では不可能な音程の変化をつけさせたり、非常に曖昧な音程を出せたりする訳です。ビブラートをかける(音を震わせる)のだって簡単に出来ますからね。僕なんかは、ギターのそういうところが面白いと思うし、それのおかげでギターが人間くさい楽器、その人の個性を表しやすい楽器になっていると思います。・・・そんな風に、ただでさえヒューマンな楽器であるギターですが、今回の主役、
デレク・トラックスが得意とするスライド(ボトルネック)奏法というのは、フレットから受ける制約を限りなく少なくしてしまうんですよね。スライドバーはフレットの上に浮いている弦の上を滑る訳ですから、フレットとフレットの間にある音も自在に使えることになります。・・・となると当然、ギターから出てくる音はより人間らしくなる訳ですよ。人の声、歌に近づきますよね(これを
ストラトのアームで演っているのが
ジェフ・ベック)。・・・まあ、こう言うのは簡単ですが、実際に演ってみると非常に難しいんです。バンドには他の楽器もあれば、歌い手だって居たりするし、コードを弾く時はフレットを押さえなければいけませんから、スライドを使う場合でも“まず正しい音を出す”というのが大前提で、そこにその人なりの個性、ギターの歌わせ方みたいなものを盛り込まなければいけません。・・・もっとも、“ただきっちりした音程を出せる”というのでは、スライドを演る意味も大してないと思うし、僕の場合、ちょっといい加減なスライド奏者に惹かれたりもしますが。
・・・今回も中々デレク本人の話になりませんが(汗)、10代にしてスライドギターという難しい奏法をマスターした彼は、やはり天才だと思います。それも“天才的なギタリスト/技術的な天才”というだけではなく、彼はミュージシャンとしても天才だと思うんです。彼の音には色んなものが詰まっていますからね。(聴いた瞬間に僕が心の中で詫びを入れた)
“Joyful Noise”というアルバムをとってみても、タイトル曲でのドライブ感、バラードタイプのインストナンバー
“So Close, So Far Away”で感じられる情感のこもった歌心、
ソロモン・バークやスーザン・テデスキ(ちなみにこの人、デレクの奥さん)といったゲストボーカルを迎えた曲で見せる歌伴の上手さ、更にはジャジーであったり、インド音楽へ近づいて行ったり(これは彼の音楽に於いて重要なものだと思います)と、彼が持つ幅く深い音楽性のショーケースのようなものになっていて、デレク・トラックスという若者が音楽の中に生きているのだとすぐに理解できます。・・・少し前のGuitar Magazineで“オールマンズ特集”をやっていて、そこにバンドのツアーマネージャーや発掘音源のプロデュースを行っている人のインタビューが載っていましたが、そこで彼は現在のオールマンズに在籍する2人のギタリストについてこんな風に語っていました。 “
ウォーレンは生活の為に音楽を演っていて、デレクは歴史の為に音楽を演っている” 勿論、“ウォーレンのことを悪く言っている訳ではない”という注釈もついていましたが、僕はこの説明良く分かるし、デレクの天才ぶりを表すのに、非常に適切な言葉だと思います。彼が今回エリック・クラプトンのバンドに参加を要請されたのも、ある意味、当然のことだったのではないでしょうか(・・・僕の中では、今回のクラプトンバンドは、“Derek & The Dominosならぬ、Derek & The Claptons”って感じです・笑)。
・・・最初は半分ヒガミ根性で認めたくないと思っていても、1度認めてしまうとすぐにファンになってしまうのが僕の素直なところで(笑)、
Gov't Muleやオールマンズのアルバムを聴き直したり、彼の過去の作品も聴いてみたり、ブルースカーニバルで来日するとなれば、新潟から東京へ出かけて行って、彼のステージを観たりもしました(ブルースカーニバルは2月にチケットが発売されていたので、プレイガイドに並ぶのも結構辛いんですよ・・・)。写真のアルバムは、1997年にリリースされた、
The Derek Trucks Bandのデビュー作ですが、1979年生まれの彼は、この時点でまだ18歳(アルバム録音時は17歳だったかもしれない・汗)、・・・にも拘らず、彼はここでウェイン・ショーターやマイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーンといったJAZZ界の大御所のカバーを演っているんですよ。僕なんて、その年齢の頃は子供ばんどとか聴いてましたわ(笑)。ホント、早熟な奴だなぁ・・・。そして、5月とは思えぬ寒空の下(雨まで降ってきた・・・)、日比谷の野外音楽堂に登場した(LIVEハウスで行われた単独公演も観たかったんですけどねえ)彼とそのバンドは、ホントに地味でした(笑)。メンバー全員見事に地味。でも、演奏の方は、デレクが“うぃ~んうにょにょにょ~ん♪”と、軽く指慣らし・・・ならぬ“ビン慣らし”をしただけで、“ひぇ~、上手い !音も抜群!・・・そんで君いくつになったのよ?・・・え?24歳?ふぅ~ん・・・、この野郎ーっ!なめとんのかー!(泣)”と言いたくなるほど上手かったです。彼を支えるバンドの皆さんも。やっぱり、ミュージシャンは“演奏が上手くてなんぼ”です。って、当たり前ですが。・・・それでまあ一応、前回紹介した(してないんだけど・・・)最新アルバム
“Songlines”の話もちょっとだけしておくと(笑)、これは前途の“Joyful Noise”以来、4年ぶりのスタジオアルバムになります(2003年リリースの
“Soul Serenade”は、実際には2000年の録音)。これがまた良いんですわ。素晴らしいんです。DTBが年間どれぐらいのLIVEをこなしているか分かりませんが(かなりの数だと思いますけど)、LIVEで培われたであろう、バンドのまとまり、成長がハッキリと感じられるものになっています。デレクのギターは勿論ですが(スライド以外の上手さも目立ちますね~)、バンドの演奏、ボーカル曲の力強さ、どれもがレベルアップしている感じです。ギターが好きな人のみならず、すべての音楽ファンに是非聴いてもらいたいアルバムです。
・・・ちなみに、僕はこのアルバム、国内盤の発売を待って買ったんですが、これが結果的には大正解でした。日本盤ボーナストラックの
“Greensleeves”、これがホントに素晴らしい。この余りにも有名な曲、ロックバンドがカバーすることも少なくありませんが、多くの場合は、“ただメロディをなぞっただけ”みたいになったりします。曲の大きさに演奏が負けてしまうパターンが多いんですよね。でも、DTBのこの曲 ・・・ジャジーにアレンジされたこの曲は、ホントに素晴らしいんですよ。“素晴らしい” の連発ですが、ホントにそうなんだからしょうがない。いやホントに。この曲をこんな風に演奏できるデレクは、やはり天才と呼ぶに相応しいです。見た目地味だけど。