昨年10月にリリースされた、
バート・バカラックのアルバムです。このアルバム、ソロとしては実に26年ぶりになるものらしいんですが、それぐらい久々のアルバムでいきなりグラミー獲ってますから流石です。・・・このところ、少し古めのPOPSを取り上げることが多くて、前回は60年代を代表するヒット曲について書きましたが(ホントはタイトルぐらいしか書いていない・笑)、今日登場してもらったバート・バカラックと言えば、(今更言うまでもなく)60年代のアメリカンPOPS黄金期を築いた偉大なコンポーザーの1人です。更に彼の場合は、編曲や指揮、プロデュースまで手掛け、
“バカラック・サウンド”と呼ばれるものまで作り出したスーパーな人です。間違いなく、アメリカンPOPSの歴史における最重要人物の1人でもありますね。・・・これは以前も書いたことですが、彼の書いた曲の多くは、彼の名前をまったく知らない人にも広く知られていて、しかもその殆どは“良い曲”として認識されていると思います。これって、凄いことですよね。クラシックの偉大な作曲家のように、誰もが名前を知っているというのも勿論凄いですが、“誰が書いたのかは知らないけど、この曲は昔から好き”みたいに言われたりするのは、ある意味もっと凄いと思います。
・・・僕の好きなバカラックの作品と言えば、やはりハル・デヴィッドと組んでいた60年代のもの、その中でも、
ディオンヌ・ワーウィックや、ダスティ・スプリングフィールドといった女性シンガーが歌っているものが特に好きなんですが、同じように思う人は多いでしょうね。・・・と言うか、そういう人ばかりでしょう。ディオンヌとバカラックの組み合わせに文句があるという人がいるなら見てみたいです(笑)。・・・僕の持っている“バカラック・サウンド”のイメージは、“メロディが美しくて、温かく、アレンジはもの凄く凝っているんだけど軽やか” といった感じのものですが、そういう雰囲気に一番合っていると思うのが、ディオンヌ ・ワーウィックを始めとする(熱唱型ではない)女性シンガー達なんですよ(勿論、男性シンガーが歌っている曲にも、素晴らしいものは沢山ありますけどね)。・・・で、この久々のソロアルバム
“At This Time”でもそういう音が聴かれるかというと、これがそうでもないんです。このアルバムに収録されたボーカル曲の歌詞(バカラック本人が手掛けたもの)は、現代のアメリカ社会に対する彼の思いが現れているものなんですが、そうなると当然、アルバムの雰囲気はシリアスなものになってしまいますよね(今、“アメリカ最高ーっ!”とか言う能天気な奴がいたら見てみたいですが)。・・・とは言え、そこはバカラックですから、僕のイメージする“軽やか”という部分が少ないだけで、美しいメロディとそれを包み込む温かなアレンジは健在ですが。
・・・ここ数年、エルヴィス・コステロやロナルド・アイズレー、
マイク・マイヤーズ(笑)といった、自らが影響を与えたアーティスト達との共演が続いていた彼ですが(なので、26年ぶりと言われてもピンとこなかった)、このアルバムにもコステロを始めとした現代の人気アーティストがゲスト参加しています。・・・と言うか、それも話題のひとつなので、ちゃんと書いておくと、コステロの他には、Dr.ドレーとルーファス・ウェインライトが参加しています。Dr.ドレーはドラム/ベースループで数曲に参加、コステロとルーファス・ウェインライトは、それぞれ1曲ずつ歌っています。2人でアルバムを1枚まるごと作って(これもグラミー受賞しましたね)気心もしれたコステロが歌う
“Who Are These People?”も素晴らしい曲ですが、個人的にはルーファス・ウェインライトの参加が嬉しいですね。彼が歌う
“Go Ask Shakespeare”は、長いインストパートを持った凄くロマンチックな曲です。・・・そう言えば、以前立ち読みした(笑)本の“ミュージシャンが選ぶAll Time Favorite”みたいな企画の中で、ルーファス・ウェインライトが、アレサ・フランクリンの
“I Say A Little Prayer”(バカラックは制作に直接携っていませんが、このバージョンも凄く気に入っているんだそうですね、僕もこの曲はこっちが好きですかね)を挙げていたことがあって、これを“ユダヤ人の作曲家が作った曲を白人のミュージシャンが演奏して、黒人の歌手が歌っている”という風に説明していたことがあったんです(また、彼はこれを指して、この曲を“究極の○○ソング”と呼んでいたとも思うんですが、肝心の○○が出てきません・・・)。僕なんかは、そこで初めてその事実に気がついて、“おお、そうか!”などとハッとしながらも、“俺って気楽だな~”とか思ってしまいました(笑)。
・・・と言うことで(どういうことやねーん!)、
“At This Time”、偉大な音楽家の現在を示す力強く美しいアルバムです。・・・あ、そうそう。バート・バカラックと言えば、
こんなアルバムを取り上げたこともありました(笑)。