弦楽器の怪人デヴィッド・リンドレーのアルバムです。2日続けて彼が参加したアルバムを紹介してきて、彼の名前も何度も出していたので、今日は御本人に登場して頂きました。・・・おもわず“怪人”という紹介の仕方をしてしまいましたが、僕はこの人の事、
メチャメチャ尊敬しているんですよ。どんなセッションに於いても最高のプレイを残していると思うし、彼の音楽に対する姿勢も大好きなんです。ルックスだって好きですよ(笑)。
デヴィッド・リンドレーの音楽を聴いたり、彼の音楽について考えたりすると、やはり盟友
ライ・クーダーの事も思い出しますよね?この2人の音楽には共通するものも沢山ありますが、音楽に対するスタンス、アプローチがかなり異なっていると思うんです。一般的にもよく言われている事ですが、僕はライ・クーダーには
学者や
研究者のようななイメージを持ってしまうんです。
求道者と言っても良いかもしれません。自分が演ろうとする音楽のルーツをあくまでも深く掘り下げる人ですよね。数年前からは、その研究対象がキューバの音楽になっている訳ですが・・・。対するリンドレーの方も、ライ・クーダーに負けず劣らず、その土地のルーツミュージックに対する愛情を持った人だとは思いますけど、彼の演奏からは、もっと音楽を楽しもうという姿勢を感じるんですよ。勿論、ライ・クーダーの姿勢も素晴らしすぎるぐらい素晴らしいものだし、どちらが良いというものでもまったくないんですが、僕はリンドレーの音楽からは、彼が
ただひたすら演奏を楽しんでいる事や、
聴いている人達にも楽しんでもらおうと思っている姿勢を感じるんです(・・・まあ、これはライ・クーダーとデヴィッド・リンドレーの性格の違い、表現方法の違いというものでもあると思いますけどね。映画“Buena Vista Social Club”の中のライ・クーダーなんて、本当に幸せそうな顔してましたから)。同じ“Musician”であっても、ライ・クーダーは
“音楽家”、リンドレーはカタカナで
“ミュージシャン”、日本で世間一般的に持たれているようなチャラチャラしたイメージのミュージシャン(笑)といった感じですかね。・・・う~ん、こんな説明で分かりますかねぇ。簡単に言えば、
ライ・クーダーからロックを感じる事は殆んどないけど、すみません、この部分 “最近のライ・クーダーから”に訂正します。例えばCrazy Horseの1stアルバムで聴けるスライドなんてメチャメチャ悪そうで、ロックしまくってましたね・・・、リンドレーはルックスからしてインチキくさくて(笑)、凄くロックを感じるんですよね。・・・
デヴィッド・リンドレーはロッカーである!
僕は、この人のフットワークも軽く弦楽器を抱えて世界各国を自由に行き来しているような姿勢がホントに好きなんです。カリビアンミュージック、スカ、レゲエ、テックス・メックス、沖縄音楽・・・とあらゆる音楽、主に明るく楽しい音楽(笑)を取り入れて、化けもの(これ本人公認のニックネームです)風に料理しているんですよね。僕が多少なりともワールドミュージックと呼ばれるものに興味を持つようになったのは、この人やライ・クーダーの音楽を聴いてからなんです。そして、この人のアルバムを聴いていると、凄く美しい弦楽器・・・、ギターではない弦楽器の音が聴こえてきて、“これは何て楽器だろう?”とか思ったりするんですけど、これがまた楽しいんです。ホント どんな弦楽器も弾きこなす事のできる人で、
弦楽器の方からも愛されている天才だと思いますね。彼のアルバムではアコースティック楽器の響きも本当に素晴らしいんですが、
エレクトリックスライドのトーンが最高なんですよね(これ、昨日も書きましたが)。スライドのソロを弾く時には、主にラップスティールギターと初期のダンブルアンプを使っているみたいなんですが、この太く弾むような音は、僕にとって
理想のリードサウンドのひとつです。
・・・で、そんなリンドレーのどのアルバムを紹介しようかと考えてみたんですが・・・どのアルバムも好きなので結構どれでも良いんですけど(笑)、
“化けもの”はあまりに有名だし、
“Win This Record!”はもひとつ泣けないし・・・、やっぱりバンドのアルバムが良いし・・・という事で、この
“Very Greasy”に決定した次第です。このアルバム、しばらくバンド活動は休んでいたリンドレーが、リンダ・ロンシュタットの提案とプロデュースで制作され、'88年に発表されたものです。プロデューサーのリンダ・ロンシュタットは凄く高いスタジオを使って、もの凄い制作費でこのアルバムを作ったんだそうです。まあとにかく、オープニングから楽しいですよ。
El Rayo-Xのメンバーも当然みんな腕達者で、リンドレーと音楽を楽しんでいる感じですね。僕は彼のボーカルも好きなんですよ。ちょっと甲高い声質で、もの凄く通りの良い声なんですよね。色んな弦楽器の素晴らしい音色を聴く事ができる非常に楽しいアルバムですが、その中で印象的な曲と言いますと・・・、スカにアレンジされた
“Do Ya' Wanna Dance”、先ほど触れた炎のスライドギター炸裂
“Papa Was A Roll-ing Stone”、できる事ならばリンドレーが歌っているとは思いたくない(笑)切ないボーカルの
“Never Knew Her”、哀愁たっぷりのブズーキの音色がおもわず涙を誘う
“Talkin' To The Wino Too”、リラックスしたスラックキーギターで大団円といった感じの
“Tiki Torches At Twilight”などです。・・・全曲紹介にならないように抑えたつもりが収録曲の半分になってしまいました(笑)。弦楽器の好きな人は勿論なんですが、この人の持つ幅広い・・・と言うより無節操な音楽性は、どんな音楽ファンにもお薦めしたいです。無節操万歳!